第1章 営業・マーケティングのやり方(準備編)

営業・マーケティングの分業を考える ~2匹のワシの話~

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顧客が求める情報を早く提供するためにも、顧客視点に立つと営業部とマーケティング部は分業すべきです。しかし分業をやりすぎてもいけません。営業・マーケティングの分業のさじ加減はとてもデリケートなのです。ではどのように営業部・マーケティング部の分業を行うことがBESTなのか、2匹のワシをモデルケースに考えてみましょう。

営業部とマーケティング部の分業を考える 

そもそもマーケティングはどんな活動をするのか、マーケティング部の在り方について前ブログで考えてきたが、やり方が少し見えてきたと思う。「兼任になるがあのメンバーに新しいマーケティングの活動をさせよう」「今のマーケティング部にあの社員を新たに配置して組織改善しよう」皆さんもいろいろとイメージが膨らんできただろう。しかしマーケティング部の中だけで考えてはいけない。実行部隊である営業部を巻き込み、互いに協力する体制にしないと営業・マーケティングはうまくいかないのだ。これが分業だ。

 ではマーケティングと営業の分業を成功させるために役割分担をどのようにするのがいいのかに考えていきたい。この分業を考えるに当たり、忘れてはならないポイントは営業・マーケティングの出発点である「皆さんの会社の製品・サービスをどうやって売っていくのか」ということである。売るためにどうするか?を忘れて、組織づくりだけのカタばかりにはまっていくと、物事の本質からどんどん離れていってしまう。いかに売るためにどうするか、営業とマーケティングの一番よい分業案を考えてほしい。

営業部とマーケティング部の分業 ~プロ野球をヒントにしてみる

例えばプロ野球の世界をヒントにしてみよう。バッターの打撃技術は年々向上し進化している。ピッチャーはバッターに対抗するために球種が増えており、肩やヒジへの負担も大きい。そんな中でプロ野球はピッチャーの分業が当たり前になってきている。先発ピッチャー、中継ぎ、抑えに役割が分かれ、それぞれ球数制限なども分業の中で考えられている。先発、中継ぎ、抑えピッチャー別に球界から賞も設定されているぐらいだ。この投手の分業で大事なポイントは2つだ。1つ目は投手の身体のことを考えての作業分担であること、2つ目はプロ野球選手は分業しないと1年間の長丁場の試合に勝てないということだ。

 営業はどうだろう。バッターを顧客だとすると、顧客は情報取得技術が進化している。比較検討→購買のプロセスに入る前に、製品サイトでいかに自社製品・サービスの情報を見てもらうかの工夫をする必要がある。それ以前の認知・学び段階の情報を顧客に渡すしくみも作らなければならない。つまり先述した案件を創るマーケティングとは何か?新規開拓作業をやりながら、営業が商談訪問や見積書や提案書作成、契約書作成ができるだろうか?とても無理だ。まず身体が持たない。長時間労働でなんとか収まるような作業量ではない。

  「御社の製品・サービスをイチから説明してほしいからパンフレットを持ってきて」という電話をかけてくる顧客はすでに皆無だが、昔はたくさんあった。インターネットやホームページがなかった時代の話だ。その頃の営業は先発完投型だった。電話をもらってパンフレットを届け、名刺交換をする。製品・サービスの説明をして見積を提出し、在庫確認をして契約に進んでいく。納品後のフォローも営業だ。顧客との接点はなんでも営業がやる時代であり、ピッチャーとして先発、中継ぎ、抑えの役割が終わったら、グランド整備をして帰っているようなものだ。調子がよければ球場でビールを売ることもあるぐらいだった(笑)、このようにすべての営業・マーケティングの仕事を先発完投で担ってきた時もあった。

 しかし今は、先発完投ができない。営業の身体が持たないこともあるが、営業の頑張りだけでは自社の製品・サービスが顧客に選ばれない時代だからだ。顧客が情報を持ち、買い方が変わった以上、認知・気づき→学び・興味・関心→比較検討→購買の顧客の買い方プロセスに、売り手の営業・マーケティングが協力して対応しなければならない。そうしないと売れないのだ。それが営業・マーケティングの分業をやらなけばならない最大の理由である。


なぜ営業・マーケティングが分業をしなけばならないのか、この根っ子の部分を理解できていない営業・マーケティングのメンバーは少なくない。この根っ子が理解できていないと、営業部は「マーケティングにできるわけがない。こっちでやる」となり、マーケティング部は「そこからは営業に勝手にやらせろ」とバラバラになりがちだ。お互いの立場にたった相互尊重の精神にならないのだ。マーケティングから始まるすべての営業活動を営業だけが背負う時代ではない。顧客視点で考えれば、ここからここまでの活動と作業は営業部がやり、ここからはマーケティング部やると、まず分業の大きな範囲から考えた後、細かいプロセスに落としていくやり方が今の戦い方なのだ。

分業をやりすぎるとどうなるのか 「2匹のワシ」の話

分業は重要だ。と言いながら分業をやりすぎるとどうなるのか。先に答えを申し上げておく。答えは「営業の足腰が弱くなる」のだ。分業しすぎたあまり、新規開拓活動ができない営業が増え、営業は口を開けて新規商談を待つようになる。ゼロからの新規営業活動はできなくなり、動きが衰え、足腰が弱くなるという意味だ。マーケティング部はもともと営業活動の中で後から生まれた組織であるため、これまで営業がやっていた新規開拓のこの部分はマーケティングが担当しますよ、と分業範囲を決めやすい。つまりマーケティング部は、今の時代の顧客の動きにあったマーケティング活動を営業から分担すればいいわけだ。

 ところがこれまでの新規開拓活動はすべて営業が担ってきた。その新規開拓活動をマーケティングに渡すことになる。これは先述した分業時代の中で、営業の身体のためと売るためには仕方がないことだ。ところが、MQL(問合せ)がくるまで営業が動かなくなると、「マーケティング部からくるMQL(問合せ)が少ないのでやることがない」というムードになる。つまり営業が新規開拓活動、新規の営業活動をしなくなるのだ。ベテラン営業は分業前から先発完投スタイルでやってきたから新規の営業活動ができるが、若手営業は今や、完全に分業世代だ。先発することなんて、やり方すらわからない。

 私は営業・マーケティング時代のそんな若手営業とベテラン営業を動物の鷲、「ワシの話」によく例える。ベテラン営業は野生のワシだ。インターネットやホームページ、マーケティングがない時代から飛び込み営業をしたり協業を仕掛けたり共催セミナーを企画したり、当たり前のように新規の営業活動からやってきた。 

つまり自分のエサは自分で見つけ、自分で食べることを実践している。その仕掛けをやらなかったら死んでしまうから自然と身についている。本能的に新しい匂いを察知し動くため活動量も多い。当然、足腰は強い。

 一方若手営業は動物園のワシだ。動物園にお客さんを連れてきてくれる人は、動物園のスタッフだ。それこそマーケティングチームがいろんなイベントを企画してくれ、宣伝広告を出して来場者を集めている。来場すればお客さんは自分の各動物エリアまで来てくれるわけだから、あとは担当動物としてお客さんを喜ばせればいい。若手営業のさばき方は見事だ。おまけに動物園のスタッフから、決まった時間にエサをもらい満腹だ。お昼寝もついている^^

 動物園は圧倒的な顧客数=商談数がある。若手営業はそれを待っていて動けばいいわけだ。しかし、若手営業も案件数が足らないこともある。野生に出ないといけない時もあるわけだ。そんな時に動物園内での振る舞いしかわからない若手営業は、野生でエサを探すためのやり方がわからない、動物園のワシというわけだ。

 ベテラン営業のような分業慣れしていないワシはエサを獲るたくましさがあるが、動物園で必ず顧客を喜ばせることができるのか?というとそうでもないと私は感じている。来場されるお客さんはすでにその動物園の情報をたくさん知っている。全く知らない人と思い込み、いつも同じように振舞っているようなベテラン営業のワシは少なくないだろう。情報武装している顧客への喜ばせ方は、今の時代、若手のワシの方が知っているかもしれない。

営業・マーケティングの分業を考える まとめ

 2匹のワシの話で私が一番伝えたいことは、分業をやりすぎるとこのような動物園のワシをたくさん育成してしまうのだ。つまり野生のワシにならなければならない時になれない、野生でエサを獲る発想がないのだ。そういう意味で営業・マーケティングの作業分担を完全に縦割りにしすぎてしまう分業には問題がある。例えば私が実行した分業ではインバウンドマーケティングの仕掛けはマーケティング部で行うが、インサイドセールスはあえて置かず、営業に担当させている。電話で接触・フォローしアポを取るまでの作業ができなければ、顧客との関係構築をする力が衰えてしまうからだ。メールや電話での関係構築力が育っていかないと新規の営業活動はできないだろう。 

けれど分業は分業で割り切ってよい時代なのかもしれない。初回訪問からは営業、それまでの作業はマーケティングと、ドライにプロセスを切っている会社もある。「いかに製品・サービスを売るか」の原点に戻った時、このような分業制の方が売れる製品・サービスもある。顧客視点に立ってみても、分業をしてもらった方が顧客も有難いケースもあるだろう。

新しい匂いとか言ってももう若手にはわからない時代だし、野生でエサを取らなくてもいいのかもしれない。完全にチームで売るやり方を徹して、分業にこだわるのはトレンドだ(営業個人のアイデンティティを育成するために、分業の中に新規の営業活動の要素は入れてほしい)。しかし、チームで強くなる営業・マーケティングのやり方の原点に戻ると、これからの売り方をすべて営業に任せることは無理だ。営業・マーケティングのチーム連携は絶対に必要なので、まずは大きな分業の範囲を決めてほしい。

 ただ少しだけ「ワシの話」は忘れず分業を考えてほしい。分業のやりすぎには注意しないといけないからだ。分業は大事だと言いながら、そのさじ加減は難しい。  ※難しい、特殊だから、ケースバイケースだ!と言っては営業・マーケティングの標準化はできない(泣) →と最初に言ったことを守りましょう(笑)

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