「受注するため」「受注した後」の双方ともクロージング力は必要とされる。クロージングとは顧客と合意することなので、商談から決めてもらう契約と、受注後、仕様を確認し作り上げていく作業等で、様々な「合意」が登場する。合意を増やす力、つまりクロージング力を向上させるためには交渉力のスキルが必要だ。BtoBビジネスに必要な4つの交渉力について解説したい。
目次
クロージング力とは?
クロージング力とは顧客に決めてもらう、つまり受注する力だけではない。受注後に「予定よりも金額が膨れた」「受注前と話しが違う」など、顧客ともめた時にも合意するためにクロージング力が必要だ。受注前、受注後のクロージング力を向上させるための具体的な手法「交渉力」は誰もがつけたいスキルだ。交渉力は営業・マーケティングだけでなく、SE(技術・開発)も使うシーンがある。
例えば、IT業界で言えば、正式受注後、要件定義や設計・製造工程などのフェーズの変わり目に、当初の業務要件や技術要件から仕様が膨らむことは必ずある。そうすると費用が増えてしまう。金額が大きくなりすぎてしまうと顧客は当初の社内決済金額と変わってくるので「提案時と話しが違う!」となる。SEは業務要件を抑えるための交渉を行い、必要性を説いて金額が増えることを了承してもらう交渉力が必要になるのだ。営業だけでなくSEの折衝時にも、顧客に納得してもらうために必要な交渉力の4ケ条を紹介しよう。クロージング力の向上につながる交渉力を、ぜひ習得してみてほしい。
クロージング力 交渉力の4ケ条 その➀ 先発完投
交渉がモメる時は「最初に言っていたことと違う」というケースが多い。顧客や営業・SE共(以下、会社をベンダーと言う)に同じ担当者同士なら話は通じるが、顧客担当者は変わっていないのに、自社の営業やSE担当が変わってしまった時は問題だ。
例えば、営業が提出した提案・見積範囲に対し、顧客はSEに「当初はこういう趣旨を営業に説明していた」とか、開発フェーズに入っての仕様変更に関して「SEの〇〇前担当者はこう言っていた」と顧客に主張されるケースだ。商談(営業)→要件定義(SE)→設計・製造(技術・開発)→導入(導入SE)とフェーズが分かれる時に、ベンダー側の担当者が変わってしまうことはある。しかし顧客担当者は変わらない。
このように商談の最初から現在に至るまで顧客担当者がすべて知っていて、ベンダー側が知らないと劣勢になる。受注後の検収や引き渡しまででモメることになる。その時に少しでもスムーズに交渉を進める方法は、顧客担当者と同じように、ベンダー側も誰かが最初から最後まで経緯を把握すること、つまり先発完投することが重要だ。
営業やSEはそれぞれの担当フェーズを持っているが、一貫した担当者と連携して提示内容や経緯をチームで共有して、交渉を進めてほしい。営業がすべてを先発完投することになるかもしれないが、それでは営業は他案件の仕事ができない。私は商談から要件定義までは営業が先発完投しSEと連携し、設計・製造から導入まではSEが先発完投し、技術・開発するべきだと考えている。最初から最後までの経緯をチームで知っていれば、ひとりの担当ではなくとも先発完投できる。営業は要所要所で必ず経緯を把握し、先発完投のクロージング力向上につなげてほしい。
クロージング力 交渉力の4ケ条 その② 筋を通す
誰がみても追加要求であり、明らかに仕様変更であった場合でもに「当初から言っていたことと変わらない。なぜなら・・」という強硬なスタイルで顧客が主張してくることがある。顧客もコストが膨らみ、納期が遅延しないよう交渉をするのだ。会社を守るための当然の行為だろう。
その時にベンダー側は「以前こう言いましたから、議事録に残しましたよね」「要件定義確認書にはそう書いていませんね・・」と筋を通せるように、エビデンス(証拠・形跡)を用意しておこう。交渉するための仕様がフワっとしていては交渉にならない。顧客はお客様なので大切な存在だが、自社のベンダー側に損失が出てしまうような筋が通らないことに関してはしっかり交渉しよう。顧客が納得するように筋を通して主張していくためにも、エビデンスをベースにクロージングしよう。
クロージング力 交渉力の4ケ条 その③ 要件を握る
交渉にしようにも顧客がやりたいことを理解していなければ交渉にならない。「費用や納期はあとでお話するとして、これが実現できればOKですね?」と要件はしっかり握って交渉に入ろう。
要件定義中の前半戦ではベンダー側は「顧客が言っていることだけが要件」となりがちだ。「要件は顧客が出すものだが、そこまで低レベルまでの要件まで再度説明しないといけないのか。そちらはプロだろ」と交渉時にいらだつ顧客を見たことがある。これは交渉力以前の問題で、ベンダーが要件を定義しシステム化していくことができないケースなので、改善しよう。
そして業務要件は徐々に機能要件に落とし仕様に変わっていき、プログラムやシステムになる。つまり最終形を意識して「先を読む」ことが、要件を握るためには必要だ。最終形は成果物であるプログラムやシステムになるが、RFP(要件依頼書)に書かれている「顧客のあるべき姿」が本当の最終形と言える。費用や納期の交渉の前に、ベンダー側は顧客が要望する仕様を、事前にしっかり把握して交渉に入ろう。
クロージング力 交渉力の4ケ条 その④ 関係構築
スバリ言う。交渉力で一番必要なことは顧客との関係構築だ。信頼関係がなければ、交渉にならずお互いの主張が平行線を辿りやすい。顧客とベンダーの仲が悪くては交渉にすらならない。
「顧客の言うことがコロコロ変わるんですよね」と悪口を社内で言っている営業やSEがいる。これまでの様々な積み重ねに不満があるのだろう。しかし解決策にならないし何も前進しない。ましてや顧客の前でもその態度が出てしまうだろう。
厳しい交渉時でも顧客と関係構築ができていれば、解決の後押しをしてくれることがある。顧客と良い関係でいるためには「お互い、よい仕事を継続していく」ことが大事だ。そういう積み重ねが信頼関係を築けていける。商談から導入、稼働まで、顧客とベンダーの関係構築をベースに、協力して進めていこう。「関係構築」これが欠けると交渉どころではなくなる。クロージングに相当苦労するので、顧客とは良い関係で保ち、交渉にあたろう。
まとめ
交渉力の4ケ条はすべて完璧には揃わない。しかし、ひとつでも欠けると交渉の難易度は上がる。だから、交渉の4ケ条を揃えられるように、意識して交渉を進めていこう。もう一度言うが最も大事な交渉力の4ケ条は「関係構築」だ。
そして、交渉力のある人は心の裏には必ず、交渉シナリオがある。着地点をヨムために、何事もしっかり確認し、探求心を持っている。事実からしかヨミはできないからだ。マジメさや謙虚さも持っている。真剣に契約や検収というビジネスの成立に取り組んでいるのだ。「確認力」「探求心」「謙虚なマジメさ」が交渉力にもつながるので磨いてほしい。営業・SEで交渉に当たる時は、チームでコンセンサスを取って交渉シナリオを準備しよう。クロージング力の向上には、交渉力のスキルだけでなく、謙虚な姿勢やチームの協力が、顧客との合意を積み上げていくと信じている。