営業の不正はなぜ起きてしまうのでしょうか?営業秘密・機密情報の漏えい事件や不合理な営業目標達成のための不正はなぜ、続いてしまうのでしょう?そこで3つの営業不正事例をご紹介しながら、営業の不正の根幹に迫り、営業リスクと対策を解説していきます。「社長や経営者が知らなかった」にならない企業の仕組みづくりや、不合理な営業ノルマを与えない組織づくりを一緒に考えていきましょう。
目次
営業の不正とは?営業秘密・機密情報の漏えいだけじゃない
営業の不正とは、営業が会社のルールを破り、企業で定められた行動規範を守れないことです。例えば、顧客情報や売上情報などの営業秘密・機密情報を漏えいさせるケースは営業の不正行為です。
最近の営業秘密・機密情報の漏えい事例では、電量販店や回転寿司の経営幹部が、転職時に競合他社へ持ち出したケースがあります。その他にも私生活の乱れから借金が膨らみ、金銭的に困窮し会社のお金や商品を横領してしまうケースも営業不正です。
営業は顧客や仕入先などの外部との交流が多く、売上という責任を任されているため、不正を起こしやすい環境にあるのは事実です。しかし、昨今では内部統制の強化からこのような情報漏えい事件や社員の金銭横領の事故は減ってきています。
なかなか減らない営業の不正の代表例は、営業目標やノルマを達成するために不正な売上行為を起こすケースです。情報漏えいや金銭横領のような刑事事件につながるような‘法に触れる不正’とは違う、営業目標やノルマを達成するために「仕方がない」と自分自身を正当化する不正です。
このような営業不正は刑事罰になるケースこそ低いものの、コンプライアンス=企業の法令尊守はできていません。なぜ営業目標やノルマを達成するために、不正な売上行為を起こすケースは減らないのでしょうか?3つ営業不正事例から傾向を整理していきたいと思います。
営業不正事例1)総合電機メーカーT社の社長チャレンジ
営業不正事例の1つ目は総合電機メーカーのケースです。当時は半導体・重電・家電事業を主軸にする総合電機メーカーで日本を代表する上場企業でした。しかし、組織的な不正会計、粉飾決算、買収企業の損失隠しなど、営業不正を10年以上も繰り返してきました。
その中でも特筆したい点が不合理な営業目標を科す「社長チャレンジ」です。毎月・毎四半期、本社の幹部やグループ会社社長がT社の社長に呼び出され営業目標(予算/年)を、更に上乗せさせられるのです。グループ全体の売上・利益を伸長させるために、営業目標の上方修正のための社長からの強いプレッシャーが原因です。結局、達成困難な無理な数字なので月末や四半期末に営業不正を繰り返していました。
「企業は伸長なくして成長はない」という考え方は基本ですが、企業の成長は売上と利益の伸長だけという‘単純な経営者のマインド’の結果と言えるでしょう。巨大グループの社長の権限を過度なプレッシャーにしか使えなかった、みじめな経営者です。
各現場やグループ会社も「社長の指示だから、達成のために不正をやるしかない」と追い込まれた営業不正と言えるでしょう。このT社は現在、バラバラに解体され、ファンドに買収されています。日本を代表する名門企業が、残念な結果です。
営業不正事例2)中古車販売会社店 B社の社長が知らなかった
営業不正事例の2つ目は中古車販売会社店 B社のケースです。販売・買取・修理/車検の大きく3事業で構成される大手中古車販売の上場企業です。しかし、利益向上のために修理/車検部門が、わざと車に傷をつけたり故障させたりして、損害保険会社に過度の請求申請をしていたことが明るみにでました。
修理/車検部門ですので営業部門ではないですが、利益の改ざんために不正を繰り返していたので、営業不正と言えます。販売部門や買取部門にも営業不正の疑いを払拭できておらず、同じように営業不正が行われている可能性があります。
このB社も社長・副社長をはじめとする経営陣による不合理な営業目標の達成要求やパワハラなどの組織風土が、不正の温床となっています。急成長してきた背景や、営業目標の達成は絶対条件という雰囲気が強く、不正につながっていったと言えます。
しかし、このB社には社長・副社長・経営陣からの不合理なプレッシャー、つまり不正指示に対するルールの構築や仕組みづくりができていませんでした。不合理な目標を達成するための不正を防ぐルールや仕組みがなく、不正な指示を会社に報告する通報制度もありませんでした。また、不正は絶対に許されないという組織的な教育もなかったのです。
またリスクの抽出をし、早期発見する予防管理もできていませんでした。記者会見では「社長や経営者が知らなかった。現場を許せない」と経営者失格の発言をしていました。内部統制の構築ができておらず、現場だけでなく経営を監視する仕組みが機能していないのは、経営者の責任です。
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営業不正事例3)IT企業 途中下車納品
営業不正事例3つ目はIT企業のケースです。この1社は上場企業であり、日本を代表するIT企業です。今では徐々に減ってきていますが、営業ルールを守っているように見せながら、実は守っていない「途中下車納品」が根強く存在しています。
営業は受注と売上では評価が違います。受注とは正式に契約が交わされた月、売上とは正式に製品・サービスが納品された月です。つまり、納品されないと売上は計上されないのです。
しかしIT業界のシステム開発は1年以上にわたり、開発=サービスが行われるため、製品=コンピュータ機器が納品できません。受注してシステム開発が終わり、システムが稼働する前から製品の納品が始まります。つまり、営業は製品=コンピュータが納品される稼働前の時期を待つしか、売上は計上されません。
しかし、営業には売上目標があります。そこで正式に受注している案件の製品を出荷し、顧客に納品せず、違う場所にいったん収めるのです。これは途中下車納品と呼ばれる営業不正の方法です。途中下車する場所とは営業が準備した倉庫や、顧客と合意した顧客の倉庫などです。
納品すれば売上計上されますので、売掛金として請求されます。そこは営業がうまく調整して、数ケ月支払いが遅れてしまうような社内手続きを取ります。途中下車納品はコンプライアンス強化のため最近では減っている営業不正です。しかし、正式に受注できているため、出荷・納品をうまく調整できます。営業は不正と知りながらよく使う、不正手段です。
ここにも不合理な営業目標を達成するために、上司や会社からの達成要求やプレッシャーがあるのでしょう。営業がインセンティブ獲得のために、自ら行動し営業不正を起こすケースもあるかもしれません。いずれにせよ、コンプライアンスや回収面で会社と顧客に迷惑をかけるので、今の時代はやめておきましょう。
営業リスクへの組織の対策
3つの営業の不正事例から、営業リスクはトップと現場の双方に存在することがご理解いただけたと思います。営業リスクは特に不合理な目標を達成するために、トップと現場が行動してしまいます。トップからの過度なプレッシャーが原因であったり、営業はトップの指示なので仕方がないと思い行動したりすることが原因かもしれません。
しかし、今の時代、営業不正による危機管理を企業で対策しておかなければなりません。経営者は社員を信じないわけではありませんが、性善説では経営はできません。
企業は営業リスクの抽出をまず実行しましょう。営業秘密・機密情報の情報漏えい対策や、営業不正事例のようなリスクの抽出を徹底的にやるのです。そうすることで早期発見できる予防管理や社内規定のルール策定ができます。
その後に、‘不正は絶対に許されない’という社員教育をやりましょう。経営者には企業の成長よりも、行動規範と法令尊守が最優先であることを教育します。
行動規範と法令尊守ができてこそ、企業は成長していきます。経営者から不合理な営業目標や過度なノルマへの達成を求めないようするのです。中期経営計画や年間予算や計画の達成を目指していきましょう。
現場である営業にも‘営業不正は悪だ!’という教育を繰り返せば、「トップからの指示だから不正に手を染めていい」と雰囲気はなくなっていきます。自分自身の欲のために営業不正をすることも悪です。社内規定やルール、行動規範と法令尊守を実践しながら、営業を楽しみ、営業目標を達成していきましょう。経営者も営業も事業の成長を、組織で実感することは大切ですよね。それが組織の大事な仕組みづくりのひとつかもしれません。
まとめ
「営業の不正事例 不合理な目標達成のための営業リスクと対策」と題して、ご紹介してまいりました。営業の不正とは?営業秘密・機密情報の漏えいだけではなく、不合理な営業目標や営業ノルマを科すケースが多いことがご理解いただけたと思います。
3つの営業不正事例からは、社長チャレンジという過度なプレッシャーを与えるパワハラや、社長が知らなかったという内部統制を構築していないケースがわかりました。営業現場も途中下車納品のような不正は、今の時代はやめましょう。
営業リスクへの対策としては、リスク抽出と予防管理、不正は絶対に許されないという教育を徹底してみてはいかがでしょうか。
営業不正を防ぐ仕組みづくりはこのようなリスク管理や教育、ルール策定だけでは足りません。もちろん営業は不正を犯した時に賞罰委員会や賞罰規定を設けたり、未然に営業不正を防ぐためのジョブローテーションを定期的に行ったりすることも重要です。
リスクを抽出し早期発見する予防管理や、社長や経営者が「知らなかった」とならない内部統制の構築も大事です。しかし、営業不正をなくす本質はもっと違うところにあるのでないでしょうか?
営業不正をなくす本質的な部分は、正義と真実と向き合い、正々堂々と営業をすることだと、私は思います。経営とは複雑でなかなか思い通りにはいきません。その中で、売上と利益を向上させていくことが、最も思い通りにいきません。その理由は製品・サービスの市場性や競合他社との優位性、何よりも顧客に評価されないケースなど、いろんなことが起きるからです。
そんな時こそ不正に手を染めてはいけません。すでに不正で企業を成長させる時代は終わりました。正々堂々と事業を行い、正々堂々と営業をやっていくのが、これから求められる企業のあるべき姿のひとつなのです。
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