予算策定は毎年、やってきます。経営者、経営企画部門・管理部門、本部長・事業部長は予算策定プロセスを把握し、スケジュール通りに進めていかなければなりません。株主総会で最も重要なことは来期計画の承認であり、その計画の根拠となるのが予算策定です。そこで、予算策定の手順を説明しながら、予算達成を目指すための方法を解説していきます。予算策定時に抜けがちな「経営●●」、そして「結局、○○予算ですか!?」に御社もなっていませんか?
目次
予算策定プロセス 方針はまず会社が示す
そろそろ予算策定の時期が近づいている企業はぜひ、参考にしてみてください。予算策定とは本部や事業部の1年間の売上と利益目標=予算を計画する作業のことです。予算策定プロセスとは経営者(社長・取締役や執行役員)、経営企画部や管理部、各本部や事業部がそれぞれ役割を持って予算策定をしていく過程や作業のことです。
予算策定プロセスの最初の作業は、次年度の方針策定から始まります。中期経営計画や経営戦略に沿って、全社員に浸透する方針=メッセージを作成し、経営者が予算策定のために発信することが大切です。
経営者の「来期はこうしていきたい!」という方針=メッセージがなく、いきなり数値化された予算策定から始まる会社がありますが、これは順序が逆です。「この事業でこれぐらい成長したい!」「顧客や株主、従業員に対し、このような企業像を目指したい!」というリーダーのシンボルなくして、計画は立てられません。
予算策定のプロセスとして、経営方針=メッセージはまず会社が示して、目指すべき企業像を作りましょう。その後、予算策定の数値化等の細かな作業に入っていくと進めやすくなります。
伊藤忠商事は経営方針があって、その次に経営計画が存在しています。経営方針に目指すべき姿やメッセージが記載されています。そして、経営計画で予算策定が行われた後の数値目標が明示されています。
従業員も株主にもわかりやすく、組織に浸透できるやり方です。これは社長だけのやり方ではなく、各本部長や事業部長にも同じ方法が適用できます。取締役事業部長だった私も伊藤忠商事の経営方針と経営目標は毎年参考にさせていただき、事業部方針と事業計画を立案していました。
予算策定スケジュール 結局、○○?
予算策定の方針が決まったら、まず数値化された全体の予算は会社が作ります。「会社全体の売上と利益目標は■■■億円」というような予算のことです。
予算の組み方、立て方、作り方や本部制と事業部制の原価計画や経費計画の算出方法は、下記記事に詳しく記載されていますので、ご覧ください。
本記事では予算策定の方法を詳しく解説していきます。まずは、予算策定のスケジュールをご紹介していきたいと思います。企業規模や業種、決算月によって様々な予算策定スケジュールがあります。次の企業例を前提条件として、わかりやすく説明していきたいと思います。
【予算策定スケジュール 企業例】
- 売上規模は100億円の中堅IT企業
- 5つの事業部制で社員数は500人
- 中期経営計画(3年)の最終年度を迎えようとしている
- 決算は3月
3月決算の超大手企業では、下期が始まる10月から来期の予算策定が始まるケースがあります。上期を予算達成して「よし!次は下期だ!」と思っていたら、もう来期の予算策定が始まっているのです。予算策定や決裁プロセスがどんどん複雑化してきているため、超大手企業では仕方がない進め方かもしれません。
では、一般的な3月決算の中堅企業を例に予算策定の主なスケジュールをご紹介していきます。
11月 経営者と経営企画・管理部門で来期の予算策定に入る
- 市場環境調査データ、競合企業調査データを分析する
- 過去の事業別売上実績や投資計画から、成長事業を決める
- 予算策定のための採用計画や人件費、原価計画を立てる
- 中期経営計画(3年)の最終年度の計画はあるものの、分析結果や計画から会社全体で「これぐらいの売上・利益目標をやりたい」を決める
12月 経営者が来期の経営方針と経営計画を決めて、事業部へ落とす
- 成長事業の見直しや中期経営計画から、経営方針=メッセージは決まった
- 市場分析や競合分析はしてみたものの、結局「各事業部:前年度2桁成長は必須」の結論になる
- 事業部別に前年比110%成長以上、前年成長10%の予算策定となり、割り当てられる
1月 各事業部別に採用計画、人件費・原価計画、受注・売上・営業利益ベースで予算策定する
- 事業部別予算策定に対し管理部門も支援し採用計画、人件費・原価計画を算出する
- 事業部長は受注残や来期見込み、成長率等を鑑みて、受注・売上・営業利益ベースで計画する
- 第1回 事業部別予算会議が行われ、弱気な事業部が修正を求められ、全体が1月末までに再提出する
2月 予算策定の事業部との合意、取締役会承認
- 再提出後の第2回 事業部別予算会議が行われ、事業部と経営側が合意する
- 来期の人事異動も人件費や原価に影響するため、人事異動案も議論する
- 2月の取締役会で来期予算が承認される
3月 今期の予算達成の追い込み、来期の準備に入る
- 今期の予算達成のために、数字追い込みと予算達成を目指す
- 人事異動の微調整が入るので、予算策定案も微修正が発生する
- 予算が承認されたので、来期早めに予算実行をしたいマーケティング施策等は3月に発注し、準備に入る
この企業例だけでなく、3月決算の企業はこのような予算策定のスケジュールになるケースが多いのではないのでしょうか? もちろん企業によっては、「エイヤー!」などんぶり予算策定ではなく、もっと精密な予算策定をするケースもあります。
しかし、多くの予算策定は「結局、経営者が前年比で算出する(したがる)」という数値予算が多いように感じています。市場動向や競合分析、過去の事業分析はしてみたものの、結局「成長することが大事であり、株主に対するアピールだ!」という風潮になり、前年比シンロドーム予算になりがちです。つまり「結局、前年比予算」になるのです。
これはこれで間違いではないのですが、成長時期の事業と安定時期の事業が毎年2ケタ成長を続けていくのは数字の重みが違います。「ずっと2ケタ成長したら、数年後には2倍やるってころですよ!」と安定時期の事業チームが感じたら、活動する従業員に大きな負担になってきます。
「結局、2桁伸長の予算策定?」の結末にならないように、経営者は企業と従業員の成長を考えた経営方針と経営計画を立案していきましょう。
7つのやり方に売上向上のヒントが隠されている
営業・マーケティング 7つのやり方 サービス基本ガイド
責任者が予算達成を目指すための手順
「結局、2桁伸長の予算ガイドライン」が12月に出たとしても、事業部の責任者は予算達成を目指すための手順と方法を考えなければなりません。今期の受注残を増やし、来期の営業戦略やマーケティング施策を考えていくわけですが、ここでは予算策定時の予算達成の手順を解説していきます。
「2桁伸長の予算ガイドライン」が12月に出たとしても、様々な要因から予算策定の手順を考えれば、予算達成に近づけることができます。
IT企業例で説明すると、営業モデルは案件型です。製品・サービスを持ち、システム開発も提供していくため、数千万円から数億円の案件を受注していきます。フェーズ別に検収され売上計上されていくので、すぐに受注→売上というわけにはいきません。
このようなケースですと、受注からの売上計上までの一定のサイクルがあるということです。売上までの計上サイクルはやや長めと言えます。
また、季節要因や周年要因もあります。季節要因とは2月にチョコレートが売れるように、企業では3月と9月に顧客の予算消化のための受注が増える傾向があります。製品・サービスのモデルによりますが、つまり、3月と9月は受注増になる月ということです。企業の事業によっては「上期型」「下期型」で売上数字が高い・低いという傾向値もあります。
周年要因とは3月決算であれば、新年度の体制が落ち着く6月ごろに問合せが増えるため、そこでうまくアプローチする施策を持っていれば予算取りに入りやすくなります。予算執行のやり方も聴けるかもしれません。詳しくは下記の記事をご覧ください。
もちろん、売上予算だけでなく、営業利益予算もあるわけですから、人件費や原価計画も影響してきます。新卒や中途採用計画や製造原価計画、広告宣伝費等のマーケティング施策の予算実行をするタイミングも予算策定時に検討しなければなりません
ここで、予算達成を目指すための手順と方法を総括します。
予算達成するための予算策定時の手順と方法
- 受注予算を立てる
- 売上予算を立てる(計上サイクルから)
- 季節要因や周年要因で予算策定に強弱をつける
- 過去の売上実績から上期型、下期型を考慮する
- 予算取りに入り、予算執行の情報を獲得する
- 人件費や原価計画のタイミングを計画する
- なによりも今期の受注残を増やして、来期の前半を楽にできるようにする
このような予算策定時の手順と方法に気をつけて責任者が計画すると、予算達成をする確率は高まります。もちろん、来期がスタートしてマーケティング施策や営業活動、技術メンバーと連携した提案活動により、受注実績は向上します。
予算策定時の予算の立て方や作り方も予算達成に近づける方法ですので、このようなポイントを意識してみてください。
受注サイクルや売上計上サイクルが長いモデルの事業は、予算取りや予算感を聴く活動が重要になります。下記の記事もご覧いただき、参考にしてみてください。
まとめ
『予算策定とは?「結局、○○予算」を達成する方法をわかりやすく解説』と題して、ご紹介してまいりました。予算策定プロセスはまず、経営方針を会社が示すことが大切であり、その後に経営計画を数値化していくスケジュールで進めていきましょう。経営者や経営企画部門だけが独断で決める会社もありますが、本部や事業部と話し合ってコンセンサスと取りながら進めていく方が良いと思います。
予算策定後の予算計画が「結局、前年比予算!2ケタ伸長」となりがちですが、責任者は事業部の予算策定をしていきます。予算達成を目指すための手順を意識しながら計画していくか、いかないかで達成確立が変わってきます。
マーケティング施策や営業活動、技術メンバーとの連携により事業は成長していきますが、予算策定時にも予算達成のコツはあることを責任者は覚えておきましょう。
予算策定の作成の流れ 予算達成できるフローとポイント
- 受注から売上計上サイクルを把握する
- 周年要因で予算策定に山谷をつける
- 過去の売上実績から、月別や上期型・下期型を知る
- 予算取り、予算執行を大切に
- 人件費や原価実行時期を計画する
- 今期の受注残を増やす
ぜひ、みなさんの事業を適切に成長させることができる予算策定をして、予算達成に向けて頑張っていきましょう。そんなみなさんを応援しています。
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